Web3の働き方は、これまでの「会社に雇われて働く」というモデルを根本から問い直す実験の場になっている。DAO(分散型の自治組織)が従来の組織の壁を溶かし、タスクごとの報酬制度が貢献と対価を直結させ、トークンによる報酬が「従業員」を「当事者」に変える。こうした変化は理想的に語られがちだが、実際に働く人にとっての意味合いはもっと複雑だ。
DAOが示す新しい組織のかたち
DAOは、ピラミッド型の会社組織に代わる仕組みを提示している。従来の会社では、誰を雇い、誰に何を任せ、いくら払うかは経営層が決める。DAOでは、こうした判断がスマートコントラクト(自動執行される契約プログラム)とトークン保有者の投票で運営される。
実際のDAOの現場はかなり流動的だ。ひとりの人が複数のDAOに同時に関わり、それぞれで異なる役割を担う。雇用契約ではなく、タスクごとの報酬や助成金のかたちで対価を受け取る。この柔軟さは、自分のペースで働きたい人には魅力的だが、「安定した収入」や「福利厚生」がないという裏返しでもある。
タスク報酬という働き方
Web3の働き方の中核にあるのが、「バウンティ」と呼ばれるタスク報酬の仕組みだ。プロジェクト側がやってほしいタスクと報酬額を公開し、世界中の誰でもそのタスクに手を挙げて取り組める。GitcoinやLayer3といったサービスがこのマッチングを手助けしている。
この仕組みの最大の利点は、参加のハードルが低いことだ。住んでいる場所も学歴も関係ない。スキルさえあれば、途上国のプログラマーがシリコンバレーのプロジェクトと直接取引できる。国境を越えた能力主義が実現しつつある。
しかし課題もある。タスク報酬は「目の前の仕事を片付ける」ことに対する動機づけとしては優れているが、組織として長期的に知識を蓄積したり、チームとしての信頼関係を築いたりすることには向いていない。品質の管理も、中央の管理者がいない環境では難しい。
トークン報酬の光と影
Web3の働き方でもっとも革新的な部分は、トークンによる報酬の設計だ。プロジェクトのトークンで報酬を受け取ることで、そのプロジェクトが成功すれば自分にも利益が返ってくる。従来のストックオプション(株を買う権利)の分散型バージョンといえる。プロジェクトの成功と個人の利益が直結するため、「やらされ仕事」ではなく「自分ごと」として取り組む動機が生まれる。
ただし、トークンの価値は激しく変動する。今月1,000ドル相当のトークンを受け取っても、来月には200ドルになっているかもしれない。これは「報酬」というよりも「投資ポジション」に近い。家賃や食費を払わなければならない人にとって、報酬の大部分がトークンという状況は大きなリスクだ。
働く人を守る仕組みが追いついていない
Web3の働き方は、現在の労働法が想定していない領域にある。DAOで働く人は、法律上の「従業員」でも「業務委託先」でもない曖昧な立場に置かれる。健康保険も有給休暇もなく、不当な扱いを受けても解雇保護のような救済手段がない。
この課題に取り組む動きも始まっている。Opolisという分散型の雇用協同組合は、Web3で働く人向けに福利厚生のパッケージを提供している。しかし、こうした取り組みはまだ始まったばかりで、対象となる人もごく限られている。
まとめ
- Web3の働き方は、DAOの仕組み、タスクごとの報酬、トークンによる報酬を通じて、従来の雇用モデルに代わる選択肢を生み出している
- タスク報酬は地理や学歴に関係なく参加できるが、長期的な組織づくりには課題がある
- トークン報酬はプロジェクトとの一体感を生むが、価格変動のリスクが働く人に重くのしかかる
- 労働者保護の制度が追いついていないことは、Web3の働き方の深刻な課題だ
- 持続可能な働き方を実現するには、柔軟さと安定性のバランスを見つけなければならない
Web3の働き方の実験は始まったばかりだ。理想として語られるビジョンと、実際に働く人が直面する現実のあいだには、まだ大きな隔たりがある。それを埋めるには、技術の進歩だけでなく、制度や仕組みの整備も欠かせない。