FOMO――Fear of Missing Out、つまり「乗り遅れたくない」という恐怖。この感情は暗号資産市場を語るうえで避けては通れない。もちろんFOMO自体は暗号資産に限った話ではないが、24時間365日動き続ける市場、桁違いの値動き、そしてSNS上で拡散される「儲かった」報告が、この心理をかつてない規模で増幅させている。
なぜ人は「乗り遅れ」を恐れるのか
行動経済学の知見によれば、人間は同じ金額の利益よりも損失のほうを約2倍強く感じる。FOMOはこの「損失回避」の変形だ。暗号資産市場では、損失は金銭面だけにとどまらない。周りが利益を得ているのに自分だけ参加していない、という社会的な焦りも加わる。「みんな儲かっているのに自分だけ取り残されている」という感覚は、冷静な判断をいとも簡単に狂わせる。
ここにSNSが拍車をかける。Twitterのタイムラインには「100倍になった」というスクリーンショットが流れてくるが、損をした人の投稿はあまり目に入らない。そもそもアルゴリズムが派手な成功談を優先的に表示するからだ。生き残った人だけが目立つ「生存者バイアス」と、SNS特有の表示の偏りが組み合わさり、「暗号資産に投資すれば誰でも儲かる」という幻想が生まれる。
バブルはこうして膨らむ
FOMOはバブルを膨らませる中心的な力だ。典型的なサイクルはこうだ。まず新しい技術やサービスが芽を出す。早くから参加していた人が利益を得て、それがメディアに取り上げられる。報道を見た一般の投資家が「自分も乗らなければ」と参入し、買いが買いを呼ぶ過熱状態に入る。そして最終的に崩壊する。
2017年のICO(新規トークン発行)ブーム、2021年のNFTバブル、そしてミームコインの周期的な爆発。パターンは繰り返されている。どのサイクルでも新しい参加者が流入するが、その多くは「既に儲けた人の話を見て焦って入ってきた」人たちだ。
ミームコインに見るFOMOの極限
ミームコインはFOMOが最も極端な形で表れる例だ。そもそも技術的な裏付けや実用的な価値をもとに評価しにくいため、価格はほぼ純粋に「みんなが買いたいかどうか」で決まる。DOGEやSHIBの急騰は、革新的な技術によって起きたのではなく、コミュニティの盛り上がりと著名人の発言がきっかけだった。
こうした局面では、FOMOは自己成就的な予言になる。「乗り遅れたくない」という気持ちが買い注文を増やし、価格が上がる。価格が上がると、さらに「乗り遅れたくない」人が増える。しかしこの好循環は必ずどこかで反転する。そのとき、FOMOは一転してパニック売りを引き起こす。上がるときも下がるときも、動かしているのは同じ感情だ。
冷静に向き合うためにできること
FOMOを完全になくすことはできない。人間の感情である以上、それは当然だ。大切なのは、FOMOを「感じていること」に気づき、それをコントロールする仕組みを自分で作ることだ。
- 投資の基準を事前に決めておく:市場が静かなときに、何に・なぜ投資するかの判断基準を書き出しておく。焦りではなく分析にもとづく軸があれば、衝動的な行動を抑えやすい
- 一回に投じる金額を制限する:FOMOを感じたときこそ、あらかじめ決めたルール――たとえば「ひとつの銘柄に資産全体の何%まで」――を守ることが重要になる
- 情報の入り口を整える:SNSの「爆益報告」だけを追いかけるのではなく、冷静な分析をしている情報源を意識的に選ぶ
- 一度に全額を投じない:定額を定期的に投資するドルコスト平均法を使えば、「いつ買うか」の判断に振り回されにくくなる
まとめ
- FOMOと暗号資産市場の関係は、損失を避けたいという本能と「周りに取り残されたくない」という社会的な焦りが掛け合わさって生まれる
- SNSは成功例ばかりを目立たせ、「投資すれば誰でも儲かる」という錯覚を強める
- バブルの形成サイクルの中心にはFOMOがあり、歴史的に繰り返されている
- ミームコインはFOMOによる投機の最も極端な姿だ
- 対処法は感情の排除ではなく、自分のルールを事前に作り、仕組みで管理すること
暗号資産市場ではFOMOと常に隣り合わせだが、市場は消えない。次の機会は必ずやってくる。大切なのは、焦りに押されて飛び込むのではなく、自分で立てた判断基準に従って動くことだ。