分散型SNSは、理論段階を抜け出し、実際に動くインフラへと進化した。Farcaster、Lens、Blueskyといったプロトコルは、いまや実質的なユーザー活動の場となり、SNSが中央集権的なプラットフォームの管理なしに機能しうることを示している。もはや問いは「技術的に可能か」ではない。「既存の大手に挑むだけのユーザー規模を獲得できるか」である。

大手SNSはなぜユーザーを裏切るのか

中央集権的なSNSプラットフォームへの批判は、もう聞き飽きたという人もいるだろう。だが問題は深刻だ。一つの企業がアルゴリズム、コンテンツの管理方針、データ、収益化をすべて握っている。ユーザーは人間関係のデータを持ち出せない。クリエイターはファンを別の場所に連れていけない。開発者は同じデータを使った競合するアプリを作れない。すべての参加者が、コミュニティの利益ではなく自社の収益に最適化するプラットフォームの裁量の下に置かれている。

その帰結はリアルタイムで表面化してきた。TwitterのイーロンマスクによるElon Musk買収は、SNSプラットフォームがオーナーの交代でいかに急速に性格を変えうるかを示した。Facebookの繰り返されるプライバシー問題は、ユーザーデータがいかに企業資産として搾取されるかを物語った。TikTokの規制をめぐる争いは、プラットフォームの一極集中が地政学的な脆弱性を生むことを例証した。

分散型SNSは、企業の方針や約束ではなく、設計そのもの(アーキテクチャ)によってこれらの問題に対処する。オープンなプロトコルの上に構築することで、プラットフォームの振る舞いを「企業の裁量」ではなく「コードの問題」にする。

三者三様の設計思想:Farcaster、Lens、Bluesky

先行する分散型SNSプロトコルは、大きく異なる設計方針を採用している。

Farcasterは「ほどよく分散化された」モデルをとる。ユーザーの認証情報はEthereum上に記録されるが、日々の投稿やコメントのデータはハブサーバーのネットワークに保存される。ブロックチェーンの改ざん耐性と、SNSに求められる速度のバランスをとった設計だ。アカウントがEthereumのアドレスに紐づくため、DeFiやNFTなどWeb3の他の仕組みとの連携もスムーズである。

Lensプロトコルは、より積極的にブロックチェーンを活用する。ユーザーのプロフィール、フォロー関係、投稿、やり取りがPolygon上のデジタル資産として記録される。人間関係のデータ全体がプログラムで操作可能になり、開発者は同じデータの上にさまざまなアプリを構築できる。代償として、インフラのコストが高く、改善のスピードはやや遅い。

BlueskyはAT Protocolを採用し、ブロックチェーンではなく「連合」の仕組みを重視する。ユーザーのデータは、個人や組織が自前で運用できるパーソナルデータサーバー(PDS)に保存される。認証にはDID(分散型識別子)を使うが、ブロックチェーンとの統合は必須ではない。暗号資産に馴染みのない人にとってはとっつきやすいが、Web3のインフラとの組み合わせはしにくくなる。

三者はそれぞれ、「SNSにおける分散化とは何か」「ユーザーはどこまでのトレードオフを受け入れるか」について異なる前提に立っている。

アカウントと人間関係を「持ち運べる」意味

分散型SNSのもっとも重要な特徴は、アカウントの持ち運びができることだ。大手SNSでは、アカウントはプラットフォームの所有物である。Twitterのハンドル、Facebookのプロフィール、Instagramでの存在感――これらはそれぞれの囲い込みの中にしか存在せず、プラットフォームの判断一つで取り消される。

ENSドメイン、Lensプロファイル、Farcaster IDのような分散型の認証情報は、特定のアプリから独立して存在する。あるFarcasterのクライアントアプリでフォロワーを集めた人が、別のアプリに乗り換えても、つながり、投稿履歴、評判を失わない。この「持ち運び可能性」は、ユーザーとプラットフォームの間の力関係を根本から変える。

人間関係データが持ち運べると、ユーザーに有利な競争が生まれる。乗り換えのコストがほぼゼロになれば、アプリは「囲い込み」ではなく「品質」で勝負するしかない。使い勝手を悪くしたアプリは、ユーザーがネットワークごと移動するため、すぐに代替品への流出リスクに直面する。大手SNSでは、囲い込みのせいで体験が悪化してもユーザーが離れにくいが、分散型ではその逆が起きる。

分散型でのコンテンツ管理という難題

コンテンツの管理(モデレーション)は、分散型SNSにとってもっとも重要な未解決の課題である。大手プラットフォームは、問題があるにせよ、数十億ドルをモデレーションに投じてきた。違法コンテンツの削除、悪意ある利用者の排除、コミュニティ基準の大規模な執行ができる。分散型の仕組みでは、中央集権を再導入せずにこのアプローチをそのまま真似ることはできない。

分散型のモデレーションで浮上しつつあるモデルは、「関心の分離」という考え方に基づく。プロトコル層はデータの保存と配信を担い、コンテンツが確実に保存・伝送されることを保証する。アプリケーション層がモデレーションを担い、どのコンテンツをユーザーに表示するかを決定する。つまり、同じ基礎データが、使うアプリによって異なるフィルターを通して閲覧されることになる。

Blueskyのラベリング(タグ付け)の仕組みがこのアプローチを具体化している。独立したラベラー(タグ付け者)がコンテンツにメタデータ(スパム、アダルト、偽情報など)を付与し、個々のアプリやユーザーがタグ付きコンテンツをどう扱うかを決める。ある国のユーザーには見えるコンテンツが、別の国ではフィルタリングされることもある。ただし、基礎のデータがプロトコルレベルで検閲されることはない。

このモデルはデータ層での検閲耐性を保ちつつ、アプリ層でコミュニティに適したモデレーションを可能にする。一方で、児童の搾取コンテンツのように世界中で違法とされるものについては、設計思想にかかわらずインフラレベルでの対処が求められるという課題も残る。

分散型SNSの経済モデル

持続可能性には、実行可能な収益モデルが欠かせない。大手SNSは広告で収益を上げ、ユーザーの無料利用を支えている。分散型SNSは別の収益源を見つけなければならない。

現在模索されているアプローチには、ユーザー間の直接的な投げ銭や少額決済、NFTと連携したプロフィールによるクリエイターの収益化、プレミアムコンテンツ向けのトークン限定チャンネル、そしてSNS上の取引に対するプロトコル手数料がある。Farcasterのフレーム機能はフィード内での直接取引を可能にし、物品の購入からトークンを賭けた投票まで、新しい収益化の可能性を切り開いている。

分散型SNSの長期的な経済モデルは、おそらくこれらの組み合わせに、継続的な開発を支えるプロトコルレベルの収益を加えたものになるだろう。これがインフラへの投資を維持するのに十分な価値を生み出せるかどうかは、まだ答えが出ていない。

ユーザー規模という壁

分散型SNSは、あらゆるSNSに共通する「鶏と卵」の問題に直面する。使う人が十分にいて初めてサービスに価値が生まれるのだ。Farcasterは積極的なコミュニティの育成と質の高い初期ユーザーの獲得で対処してきた。LensはDeFiやNFTの既存ユーザー層を活用した。Blueskyは招待制の限定感とTwitterからの移行者への訴求で成長した。

普及の行方は、暗号資産に詳しい層の外に広がれるかどうかにかかっている。一般のユーザーが気にするのは、友だちがいること、おもしろいコンテンツがあること、自分の考えを発信できること。プロトコルの設計ではない。分散型SNSが大手のコンテンツの質と人間関係の密度に追いつくか上回るまでは、ニッチな代替手段にとどまるだろう。

ただし、Web3の他のインフラとの連携は成長のてこになりうる。DeFiのポジションやNFTのコレクション、DAOへの参加状況と結びついたSNSアカウントは、大手プラットフォームには再現できない体験を生み出す。このWeb3特有のSNS体験が、より幅広い普及へのきっかけになるかもしれない。

まとめ

  • 分散型SNSは企業の方針や約束ではなく、オープンなプロトコル設計を通じて大手プラットフォームの問題に対処する
  • Farcaster、Lens、Blueskyはブロックチェーンとの統合度合い、速度、とっつきやすさについて三者三様のアプローチをとっている
  • アカウントと人間関係の持ち運びは囲い込みをなくし、アプリに品質での競争を強いる
  • 分散型のモデレーションはデータの保存とコンテンツの表示を分離し、プロトコルレベルの検閲なしにコミュニティごとの基準を可能にする
  • 経済的な持続可能性は、複数の収益モデルが模索される中でまだ未解決の課題である
  • 一般への普及には、大手プラットフォームの体験に匹敵しつつ、分散型ならではの独自の価値を提供する必要がある

分散型SNSはもはや机上の空論ではない。実際に動いており、成長しており、設計としても健全である。残る課題は、初期の愛好者を超えて広がり、日常的なコミュニケーションに本当に役立つだけの人間関係の密度を築くことだ。